さて、ここまで自動的に表示されていたピップを、いよいよ実際に数えてみましょう。オンライン対戦では数えなくとも表示されますが、実際のボードを使っての対戦では、当然ピップは表示されません。ピップがわからなければ、バックマンを走ってレースに持ち込むのがよいのか、それとも留まって自陣に手を入れるのがよいのか、判断するのもひと苦労です。
ピップカウントは全てのギャモンプレイヤーにとって一大テーマです。さまざまな方法がありますが、その中から実用性の高いものに絞っていくつかご紹介します。コツは「工夫してなるべく少ない計算で楽に数える」ことです。
同じポイントにあるコマは掛け算を使います。
図の例では、
となり、初期配置では 167 ピップだとわかりますね。
実戦では紙もペンも使えませんので、①~④ を先に計算してからあとで合計するのではなく、計算したところから逐一足していくのがよいでしょう。例えば、まず ① を計算して30ピップ。次に ② を計算して24ピップ、合わせて54ピップ。それから ③ を計算して65ピップ、合わせて119ピップ、・・・といった具合です。
※13 の段(13、26、39、52、65)は日常ではあまり使いませんが、バックギャモンではよく使います。すぐに計算できるようにしておきましょう。
初期配置のようにコマがスタックしている状態だとまとめて数えられますが、ゲームが進むにつれてお互いのコマが入り乱れ、だんだんと数えづらくなっていきます。
そんなときにも、ポジションの部分部分をなるべく「かたまり(クラスター)」で捉え、少ない回数で数えてしまおう、というのが、次に紹介する「クラスターカウント」です。知っているクラスターのパターン数が増えれば、カウントも速くなります。
セミプライム = 真ん中のポイント × 10
セミプライム形(ブロックが5つ連続した形)では、真ん中のポイントを10倍するとセミプライム全体のピップになります。上の図だと、
真ん中(6ポイント) × 10 = 60 ピップ
となります。簡単ですね。一度に10枚のピップを数えられるのは便利で、非常によく使います。
7ポイント2枚 + 8ポイント2枚 = 30
(図の 7〜9ポイントがズレている? by 横瀬)
7ポイントと8ポイントにコマが2枚ずついる場合、
(7 + 8) × 2 = 30 ピップ
となります。序盤に
2枚ずつ向かい合い = 50
ボードを挟んでブロックが向かい合っている場合、計算が簡単になります。上図の例だと、
(7 + 18) × 2 = 50 ピップ
となります。いい位置にアンカーを作っているときなどに使えます。
実戦のポジションだとここまできれいな形になることは少なく、上で学んだクラスターのパターンをそのまま適用するのは難しいでしょう。しかし、ポジションを頭の中で少し動かして、数えやすいポジションにすることができます。それが次に説明する「メンタルシフト」です。
あるコマを1ピップ進めて、別のコマを戻す
図の自陣の形はセミプライムではありませんが、工夫すればセミプライムのように数えられます。6ポイントのスペアチェッカー1枚を1ピップ後ろに、そして8ポイントの1枚を1ピップ前に動かしてみましょう。するとこうなります。
セミプライムになったのがわかるでしょうか。6ポイントを中心としているので、
6 × 10 = 60 ピップ
となりますね。
ブロックごと動かす
次は、相手の陣地側にある相手のコマのピップも数えてみます。
数えるコマだけを取り出すと下の図のようになります。
一見うまく数えられなさそうですが、8ポイントのブロックを5ポイントに動かしてみましょう。(8 ー 5) × 2 = 6 ピップ分進めた計算です。すると見慣れた形になります。
4ポイントを真ん中にしたセミプライムに3ポイントのスペアがおまけで付いているので、
4 × 10 + 3 = 43 ピップ
です。
元のポジションから6ピップ進めた結果、43ピップのポジションになったため、元のポジションは
43 + 6 = 49 ピップ
だとわかりました。
文章にすると少し長いですが、計算自体は簡単なので、慣れれば一瞬で数えられるようになります。
ここまで説明した内容を活かして、実戦のポジションでピップを数えてみましょう。
まず自分側(白)のピップです。① 6ポイントのコマ2枚を頭の中で5ポイントに動かすと、6ポイントを中心としたセミプライムとなります。元に戻した形は 60 + 2 = 62 ピップですね。
あとは ② 13ポイント、③ 18ポイントのコマをそれぞれ数えます。13ポイントが 13 × 3 = 39 ピップ、18ポイントが 18 × 2 = 36 ピップです。
すべて足し合わせると、
62 + 39 + 36 = 137 ピップ
が正解です。
次に相手側(黒)のピップです。
① 6ポイントのコマ2枚を7ポイントに、10ポイントのコマ2枚を9ポイントに動かすと、7ポイントを中心としたセミプライムの完成です。従って 70 ピップとなります。
② 13ポイントのコマが 13 × 3 = 39 ピップ、③ 20ポイントのコマが 20 × 2 = 40 ピップなので、合わせて
70 + 39 + 40 = 149 ピップ
となります。白が 12 ピップ進んでいることがわかりました。
実戦ではお互いに自陣を整えようとするため、セミプライムに似た形が現れやすくなります。今回は自分側、相手側とも3つの塊とみなせ、3回の足し算で計算できました。
次のポジションも工夫のし甲斐がありそうです。
まず自陣側ですが、6ポイントと8ポイントのコマ1枚ずつを7ポイントに乗せてみましょう。するとこうなります。
(「6と18は四角で囲えないのですが、二つの四角を組み合わせて囲えないでしょうか」というリクエストについては、↑のように直線で繋いで見ましたがどうでしょうか? by 横瀬)
まず、① 7ポイントと8ポイントが3枚ずつで 15 × 3 = 45 ピップです。
次に、② 6ポイントと18ポイントのブロックをまとめて数えます。頭の中で18ポイントのブロックを2ピップ戻して19ポイントに移すと、6ポイントのブロックと向かい合わせになるので50ピップとなります。最後に2ピップ進めて 50 − 2 = 48 ピップです。
あとは ③ 3ポイントの3枚(3 × 3 = 9 ピップ)、④ 13ポイントの2枚(13 × 2 = 26 ピップ)を合わせると、
45 + 48 + 9 + 26 = 128 ピップ
となります。
相手陣はかなりプライムに近い形なので簡単に計算できそうです。
6ポイントの1枚と8ポイントの1枚を7ポイントに乗せると、7ポイントを中心としたセミプライムと、5、6、8ポイントのスペアチェッカーが1枚ずつです。足すと、70 + 5 + 6 + 8 = 89 ピップになります。これと13ポイントの2枚(13 × 2 = 26 ピップ)で
89 + 26 = 115 ピップ
となります。こちらが13ピップ負けている計算です。
なるべくまとめて数える、ピップカウントのコツはわかってきたでしょうか。もっとうまい工夫の仕方があるかもしれません。もしこれより良い方法を思いついたら、今度こっそり教えてください。
ピップカウントは毎回する必要がありますの?
僕は大事な場面でだけ数えるようにしているモン。プロの中には「ランニングピップカウント」と言って、常にお互いのピップを計算し続けているプレイヤーもいるモン
ずっと計算だなんて、想像するだけで疲れちゃう! すごいですわ!
ここまで紹介した方法を使えば、愚直に1枚ずつ数えるよりも圧倒的に早くピップを数えられること間違いなしです。ただ、それでもやはり課題は、「2桁同士の足し算を頭の中で何度かする必要がある」ことです。計算している間に、すでに数えたピップを忘れてしまっている、なんてことも。そこで、なるべく足し算の労力を減らせる方法を以下に2つ紹介します。良さそうだと思ったらぜひ試してみてください。
(以降、未チェック)
柳カウントは、若手プレイヤーの一人である柳さんが提案したピップカウント手法で、やっていることは非常にシンプルですがその効果は絶大です。柳カウントを一言で表わすと、
「6ポイント = 0ポイントとしてカウントし、最後に 6 × 15 = 90 ピップを足す」
方法になります。つまり、普通のボードが「1~24ポイント」のところを、「−5~18ポイント」として数えてしまおう、ということなのです。これにより、全体的に数字が小さくなり、計算も簡単になります。試しに初期配置のピップを数えてみましょう。
「ボード周囲に-5~18までの数字を振ってください」はこんな感じでどうでしょうか? by 横瀬)
① 6ポイントにあるコマは0ピップとみなすので無視できます。計算しなくて済むのは嬉しいですね。② 8ポイントは2ポイント扱いなので 2 × 3 = 6 ピップ、③ 13ポイントは7ポイント扱いで 7 × 5 = 35 ピップ、そして ④ 24ポイントは 18ポイント扱いで 18 × 2 = 36 ピップとなります。合計で、
6 + 35 + 36 = 77 ピップ
となります。最後に 6 × 15 = 90 ピップを足して、
77 + 90 = 167 ピップ
だとわかります。
「基本」の項の計算と見比べてみてください。計算中に現れる数字がだいぶ小さくなりました。なお、先ほど紹介したクラスターカウントのテクニックは柳カウントでは使えません。代わりに次のような特徴を駆使します。
6ポイントを中心にした対称形は 0ピップ
例えば、下の図の形は0ピップ扱いのため、ピップカウント上無視できます。
(ミッドポイント + バックマン初期配置)× 2 = 50 ピップ
ミッドポイントと初期配置のバックマンはまとめて数えましょう。
メンタルシフトも使うとさらに工夫の幅は広がります。もっと詳しく知りたい方は次の動画を見てみましょう。発案者の柳さんが詳しく説明しています。さまざまな実戦ポジションを実際に数えてみるコーナーもありますよ。
もうひとつのカウント方法として、数学者の Douglas Zare が発案した「ハーフクロスオーバーピップカウント」を紹介しましょう。「残りクロスオーバー数」でピップを概算できる点に着目し、小さい数字の足し算を繰り返す方法です。
バックギャモンのボードは、
の4つのエリアに分けられます。
そしてこれらのエリア間を移動することを「クロスオーバー」と呼びます。例えば、初期配置から始めたとき、ベアインに必要なクロスオーバー回数は
1 × 3 + 2 × 5 + 3 × 2 = 19
で 19回です。正確なピップと比べると、残りクロスオーバー回数は簡単に数えられます。小さい数字を足していくだけなのですから。
(矢印でクロスオーバーを示し、ベアインまで必要なクロスオーバー数を数字で表示してください。以下イメージ図)
このクロスオーバー回数をピップカウントに活かせないでしょうか?
1クロスオーバーあたり6ピップのため、クロスオーバーの6倍をもってピップカウントとする方法がまず思いつきます。しかし、これではさすがに誤差が大きすぎますね。
そこで、「ハーフクロスオーバーピップカウント」では半分の3マスを1エリアとして数えます。つまり次の図のように、ボードを計8分割します。この分割に対して「クロスオーバー」を考えます。1クロスあたり半分の3マスなので、「ハーフクロスオーバー」ですね。
ハーフクロスオーバーをまず数えてしまい、誤差の分は後で帳尻を合わせる、というのが「ハーフクロスオーバーピップカウント」の基本コンセプトです。初期配置のピップを数えながら、実際の手順をひとつずつ見ていきましょう。
手順①: ベアインするのに必要なハーフクロスオーバー数を数える
次の図は、それぞれのエリアにあるコマの数え方を示しています。4、5、6ポイントのコマはちょうどベアインしているため 0クロス、7、8、9ポイントは 1クロス、10、11、12ポイントは 2クロス、・・・の要領です。なお、1、2、3ポイントは −1クロス扱いになることに注意してください。
この図に従うと、初期配置のハーフクロスオーバー数は
0 × 5 + 1 × 3 + 3 × 5 + 6 × 2 = 30
で、計 30クロスです。
手順②: ① の数を3倍し、75を足す
すべてのコマが5ポイントにある形は 5 × 15 = 75 ピップです。この形を基準とします。
この形まで持ってくるにはハーフクロスオーバー回数のおおよそ3倍のピップが必要です。つまり、現在のピップ数は
クロス数 × 3 + 75
でだいたい見積もれます。初期配置の例では、 30 × 3 + 75 = 約 165 ピップです。
手順③: 誤差を補正する
それぞれのエリアにて、「前」にいるコマ1枚につき −1ピップ、「後ろ」にいるコマ1枚につき +1ピップです。エリア内の偏りの分だけ誤差が生まれているので、それを補正します。
上の初期配置の例だと、6ポイントの分が +1 × 5 = +5 ピップ、13ポイントが −1 × 5 = −5 ピップ、24ポイントが +1 × 2 = +2 ピップ で、合計すると +2 ピップです。これを ② で求めた 165ピップに加えます。こうして、計 167 ピップだとわかりました。(説明文の6ポイントと13ポイントのプラスマイナスの符号が逆になっているように思われます by 横瀬)
手順が3つもあるため、ちょっと大変そうに見えるかもしれません。しかし、ほぼ全ての計算が一桁の足し算、掛け算で済むため速く、数字を覚えておくのに使う労力も少なく済みます。また、クラスターカウントと比べると、どんなポジションに対しても同じように使えるのもメリットといえるでしょう。
ここまで紹介してきたのはすべて、「ピップの絶対値を数える」方法でした。実際の試合では絶対値よりも「相手とのピップ差」が重要になることも多いです。何ピップ勝っている、あるいは負けている、がわかるだけでもプレイ方針は立てやすくなります。
もしお互いが同じような形をしているならば、違うところのみを数え、同じところは無視することで計算を単純化できます。お互いにハイアンカーを持っている局面(相ホールディングゲーム)や、ベアオフ合戦などでよく見かけます。例えば下の図で、同じ色で囲われたコマは白黒同じピップですので、残りのコマを比較するだけで十分です。
(「エリアを二色×2で囲んでください」はこんな感じでどうでしょうか? by 横瀬)
お互いの形が似ていないときも工夫のしようはあります。例えば柳カウントでは、最後に加える 90ピップを考えなくてよくなります。また、ハーフクロスオーバーピップカウントはピップ差だけを求めるときにはうってつけです。① では、お互いのハーフクロスオーバー数の差だけ計算し、覚えておきます(たいていは20以下の小さい数字になります)。② で加える 75ピップは無視できるので、① を3倍するのみ。あとは ③ で補正すればピップ差が求まります。
いろいろなピップカウントのやり方を紹介してきました。全ての方法を使いこなせるようにしておく必要はありません。「これ」と思ったやり方をひとつ使えるようになっておけばそれで充分です。あとは繰り返し使っていけばどんどん速くなっていきます。
まずは下の練習問題にチャレンジし、実践練習を積んでいきましょう。それが終わったら、ピップカウントを練習できるサイトとして、
などがありますので、こちらも覗いてみてください。
(練習問題:未 それぞれのカウント方法での解説を3問ほど)
(future work:over the boardでの数字暗記へのtips。指を使う?)
*1 : (参考)https://bkgm.com/articles/McCool/cluster.html by Jack Kissane
*2 : (参考)”The Half-Crossover Pip Count” by Douglas Zare, https://bkgm.com/articles/Zare/HalfCrossoverPipCount.htm
*3 : (参考)https://www.youtube.com/watch?v=uaLRSqfEHVc 柳カウント)